Washingtown

ワシントン 1-2-10, Suntopia Street, Minami-machi, Mito, Ibraki, Japan

ワシントン

ワシントンは時代の波に流され、忘れ去られゆくものを愛するかなりナウい総合商社です。誰かにとって煩わしいものや不可解なものに宿る温もりや可能性を慈しむ心を育める環境を次世代に継承していけるような活動を心掛けております。ワシントンの活動は2008年に現代美術家の矢口克信が水戸市内にあった取り壊し寸前の空家を舞台に「小料理喫茶ワシントン」と「かなりナウいショップ和心団」を1ヶ月間限定で開店したことに始まります。これを機に建物の解体は延期され、店の営業を継続する傍らローカル新聞の発行、ローカルフェスティバルの開催や地域住民と協働プロジェクトを行っていきました。2013年にワシントンの建物は解体され一階の外壁を残し野外オルタナティブスペース「ワシントン跡地」が誕生しワークショップや上映会、演劇の公演などを開催して参りました。2022年には「ワシントン建築事務所」を設立し、取り壊されゆく昭和建築の保存活用事業に取り組んでおります。

ヒストリー

草創期 / 2008

2008年10月。アートプロジェクトの会場として空家を探していた矢口は水戸市内にあった取り壊し予定の建物と出会います。一階は旧小料理と旧洋品店、二階は住居で寝室には座敷童子のあしらわれた襖がありました。家主に借用を申し出ると「取り壊す予定だから好きにしていいよ」と言われ、矢口は建物外周にしめ縄を旋し「この建物には座敷童子がおります」と玄関先に張り紙をして1ヶ月間限定で喫茶と用品店を開業しました。するとワシントン営業初日に大金(おおがね)と名乗る年配の女性が店の前を通りかかり「この通りはサントピア通りと呼ぶんだよ」と言いながら自分のお見合い写真を矢口に手渡しました。開店期間中にこうした不可思議な出来事が幾重も起こり、営業最終日には家主が店を訪れ「もう少し使っていいから」と言い残し建物の解体は延期されることになります。

第一活動期 / 2009 - 2013

2008年12月。ワシントン営業初日に大金さんから預かったお見合い写真を主役にローカルフェスティバルの開催を矢口は思いつきます。早速、大金さんに写真の使用許可を尋ねると「じゃんじゃん使って頂戴、私の名前はたいきんめぐむこ大金恵子よ」と一言。初めてフルネームを聞いた矢口は「生きている座敷童子ではないか」と驚嘆します。こうした目に見えない力に操られるかように矢口は喫茶営業と並行して、ワシントン祭りの運営やご近所情報満載の和心団新聞の発行、はたまた老若男女世代を超えた催し物などを開催してくことで、幾つものご近所事変が巻き起こっていきます。

転換期 / 2013

2013年5月。ワシントンの建物は解体されることになります。建物が位置する水戸市中心市街地は戦時中に大規模な空襲により焼け野原となりました。家主の祖父、亀治郎さんが焼け野原の街中で廃材を拾い集め作ったバラック小屋がワシントン建屋の原点になります。復興を遂げていく中で幾度となく亀治郎さんの手によって増改築を繰り返しながら建物は成長していきました。矢口は建物に眠る記憶を辿るように解体作業を電動工具などを一切用いることなく手作業で行いました。解体作業終盤には建屋の一階外壁を残した状態で解体作業を終え、同地に野外オルタナティブスペース「ワシントン跡地」を誕生させます。

第二活動期 / 2014 - 2017

ワシントン解体後、喫茶店を介した日常的な共同体は消失し、矢口は個としての芸術表現へ傾倒していくこととなります。跡地の補強工事を行いながら、変化し続ける空間でパフォーマンスや演劇などの公演を行っていきます。またこの時期にそれまで開かずの扉だったワシントン建屋裏に隣接していた2軒の空き家を矢口が管理することになり、新たな喫茶とアトリエへと改修していきます。2017年には、ワシントンの象徴的な存在となっていた大金恵子を代表に「Keiko Ogane Gallery」を設立。パリで開催される世界最大の写真見本市「ParisPhoto」に招聘され、ワシントン解体の風景を納めた記録写真群を出展しました。大金恵子にとって人生二度目の海外旅行が花の都パリとなりました。

第三活動期 / 2018 - 現在

2018年5月、ワシントン跡地の改修を継続しながら喫茶の営業を再開します。2020年以降コロナの影響もあり喫茶営業や演劇の公演開催はままならない状況が続いていましたが、これを好機と捉え隣接するワシントン跡地でこれまでの活動の記録映像作品を上映する野外上映会を開催して参りました。2022年にはワシントンの活動を通じて培ってきた理念や手法を活用し一軒でも多くの昭和建築の保存活用を目的に「ワシントン建築事務所」を設立し新たな活動の展開を迎えております。

プロフィール

矢口 克信

矢口 克信

2002年から2007年にかけてロンドンを拠点に活動。廃屋や公共空間を舞台に即興的なパフォーマンス作品を精力的に発表する。2008年に帰国後、水戸市内の昭和建築を舞台に「小料理喫茶ワシントン」を開業。営業初日に店先で大金恵子と出会いお見合い写真を手渡される。これを機に幾つもの不可解な出来事に巻き込まれながら日本の社会通念に囚われない独創的な社会実践活動を展開している。
www.katsunobuyaguchi.com

大金 恵子

大金 恵子

2008年小料理喫茶ワシントン開店初日に店先で矢口と出会いお見合い写真を手渡す。これを機にワシントンの象徴的存在となっていく。ワシントンで開催されるパフォーマンスや演劇、ワークショップなどほぼ全ての催し物に鎮座。2017年 Keiko Ogane Gallery オーナーに就任。6人の孫の世話をしながら日々編み物に没頭する稀代の前衛主婦である。
www.keikooganegallery.com